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2016年2月28日 (日)

「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」について

日本公認会計士協会から平成28 年1月27 日付けで「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」という会長通牒が発せられている(会長通牒平成28 年第1号)。
 https://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/jicpa_pr/news/files/0-99-0-2-20160127.pdf
 

「監査人は、資本市場の健全な発展に寄与すべく、監査の実施に当たっては厳正な態度で臨まなければならない。昨今の度重なる会計不祥事は監査の信頼を揺るがすものであり、公認会計士監査の信頼回復のため、会員各位には下記の点について特に留意し、真摯に監査業務に取り組むことを強く要請する。」として、「リスク・アプローチに基づく監査」「職業的専門家としての懐疑心」「経営者による内部統制を無効化するリスク」「会計上の見積りの監査」「監査チーム内の情報共有」「審査」「監査時間・期間の確保」の7点を挙げる。

 これらの点は、いわばミクロ的な原理原則の繰り返しであって、「昨今の度重なる会計不祥事」がこれらの原理原則を遵守できなかったことへの解決策となるわけではなかろう。協会としては、原理原則を遵守していれば、不祥事は防げるというメッセージを会員に伝達することの意味はあるが、根本的な問題解決の提言にはならない。問題は、統制環境にあるのであって、どうすれば問題解決になるのかを少し考えてみたい。

重要なポイントは、次の4点である。

 
1.クライアントとのコミュニケーション力
 
 特に監査チームの現場では、クライアントと膝を突き合わせて、会計事象の分析・対応、会計基準の適用の検討などを行うのであり、最も現場に近い会計士はクライアントとのコミュニケーションに第一次的な重大な責任を負う。この現場では、「重要性の基準」ではなく、軽微な現象も見逃してはならないというミッションを担っていると意識するのが適切である。クライアントに対する説得力もコミュニケーションができているかどうかで決まってくる。説得的な理由も告げられず、理論的・実務的な議論もできず、形式を適用しようとする強引さは避けるべきである。昨今の会計不祥事により、準則主義を過度に強調するきらいがあるが、「なぜその基準を当該事象に適用してそのようにしなければならないのか。」という実質を説明できなければ、逆に不信感を生じさせることになる。

 
2.業務の透明性。チーム内、監査法人内の担当を超えた情報の共有力と意見交換力
 
 組織が硬直化している、また、チームのトップが強引であったり、判断が遅いとなると、重要な情報の共有および重要な事象の議論がおろそかになることは容易に想像できる。チーム力を上げ、チームがどのように動いているかを監査法人の組織内で把握できるようにしておかなければ、品質維持・向上のための監視機能が働かない。

 
3.豹変力
 
 「君子は豹変する」という本来の意味での「豹変」である。すなわち、誤りを誤りと認めて過去を引きずらずに正しい方向性を示す力のことである。小さな見逃しが高じて大きな不祥事に至ることはしばしば経験する。「監査人は強い態度で監査業務に臨むことが必要である。」(上記会長通牒)といっても「強い態度」に出られない事情があるのであって、これでは解決にはならない。「豹変してもかまわない。今後クライアントのためにならない場合には、躊躇することなく豹変すべきである。」と背中を押すべきではないか。「毎期、全く新たに監査を引き受けるとしたらどうするかというスタンスで監査に臨み、過去の監査をリセットせよ。」といいかえてもよい。

 
4.精神的な独立性
 
 監査人は、客観的な独立性のみならず「精神的な独立性」を有すべきであり、やはりここの弱さが問題を引き起こしている大きな要因である気がする。「クライアントの真の利益のために正面から誠実に考える姿勢」があれば、何を憚ることがあるのか。精神的な独立性は、このような職務に取り組む真摯な姿勢から生じるものであり、クライアントの尊敬を勝ち取らなければ、真の独立性は得られない。

監査人は、問題の本質を、大きな統制環境の枠組みからとらえるべきであり、また、クライアントと真の信頼関係を築き、クライアントの利益が株主その他のステークホルダーの利益と一致するという信念をもって、職務を遂行していただきたい。

弁護士 出澤秀二

 

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